―存在とは何か

真理への飽くなき追究

―不平等は悪か?平等は正義か?

不平等は悪か?平等は正義か?

 

サラリーマン「はー、ちくしょー、イライラするわー部長のやろー」

ソクラテス「どうしたんだい、そんなにイライラして」

サラリーマン「え、あんた誰ですか」

ソクラテス「ボクはソクラテス。それよりどうしたんだい?そんなにイライラして」

サラリーマン「そら、イライラしますよ。。毎日残業、残業の連続。おまけに部長は、仕事を全部俺に押し付けて、部長は定時で帰っているんですよ?なのに毎日頑張っている俺より、部長の給料は俺よりもずっと多く貰っている。こんな不平等が許されてイライラしてずにはおれませんよ。」

ソクラテス「ふーん。なるほどね。つまり君は、自分よりも少ない仕事で自分よりも多くのお金をもらっている部長に嫉妬している訳だね。」

サラリーマン「まぁ、嫉妬というか許せないですね。だってそんなのおかしいじゃないですか!」

ソクラテス「でも君は部長を許せないといっているけど、今日から君が部長の立場になれると言われたら君は喜んでそれを受け入れるのではないかな?つまり君は部長みたいな、少しの仕事で多くの給料をもらえる立場に憧れているけど、現在の自分がそのような立場でない事を悲しんでいるだけではないのかな?」

サラリーマン「そんな事はない!私は不平等であるよりも平等である方が正しい事だと言っているんのです」

ソクラテス「でもちょっとまってくれよ。平等である事が正しいというけど、自然の中には何一つとして平等なものなんてないじゃないか。むしろ不平等であるという限りにおいて平等だろう?平等でない事を嘆くということは、自分が樹木の様に背が高くない事や、ライオンの様に強くない事を嘆く事と同じく愚かだと思わないか。人間同士だってそうだ。人間はそれぞれ持っている素質や能力がそれぞれ違う。何一つとして同じ人間は一人もいないじゃないか。つまり君が平等である事に憧れているのは、単に君よりも優れていると思っている他の者に憧れているだけで、不平等である事に悲しんでいるのは、自分よりも優れていると思っている他の者に嫉妬しているだけなんじゃないのかな?つまり君は、平等である事に憧れているのではなく、自分が他人よりも優れている人間である事に憧れているだけなんじゃないかね?」

サラリーマン「ああ、そうかもしれません、いやそうですよ!私は部長よりも、他の人間よりも優れた人間でありたい。そう思う事の何が悪いっていうんですか!」

ソクラテス「悪いよ。だってね、君がどれだけ頑張った所で、キミより優れた他のものはいくらでもいるし、逆に君よりも劣っているものはいくらでもいる。なぜなら、自然は不平等だから。それは、自然にはありとあらゆるものが存在しているという限りにおいて必然なんだ。君が自然の一部である以上、それはどうする事も出来ない。不可能なんだよ。つまり君は、他の人間よりも優れていたいと願う限り、必然的に自分よりも優れた他の者を観想するたびに悲しみを抱き、自分よりも劣っていると人間を観想するたびに喜びを感じる事になるだろう。つまり、君は悲しみを感じない様に、自分よりも優れている他の者がいなくなればいいと思って、危害を加えるようになったり、逆に、自分よりも劣った人間にしようと努めるだろうね。逆に、自分よりも他人の劣った点を見つけるたびに喜びを感じるから、他人の欠点を誇張したり他人の人間のあら捜しをする事に喜びを感じ、自分の周囲には自分よりも劣っていると思う人間や、自分を優れていると思わせてくれるようなたいこもちやこびへつらう人間を集めるようになるだろうね。結果的に君は自分の周囲の優れていると思う人間に憎しみの感情、即ち嫉妬心を抱き、他人の欠点に喜びを感じるような、自分にとっても他人にとっても害悪しかふりまかないような人間になってしまうだろうね。そして自分は他人よりも優れてると誤った思い込みを抱くようになる。そして、人間は互いにこのような訳であるから、互いに憎み合う事になる。つまり争いが絶えない事になる。」

サラリーマン「じゃあ自分が他人よりも優れた人間でいたいと思うのは悪だっていうんですか。」

ソクラテス「ああ、悪だね。自分が他人と比較して優れている、あるいは劣っていると思う事は悪だ。なぜなら、他人に嫉妬心を抱き、自分よりも優れていると思う人間を憎み、危害を加えるようになる。一方、他人の欠点を喜び、他人の劣った点を歓迎するような人間になる。このような訳だから人間は憎しみ合う事になり、争いが絶えないのだ。」

サラリーマン「じゃあ、どうすればいいんですか。」

ソクラテス「そもそも、僕たちは、何の為に、他人よりも優れていると思いたいのかと言うと、自己の存在を肯定する為なんだよ。つまり、他人よりも優れていると観想する事により自己の存在を肯定しようと努めているんだ。じゃあ、別に、他人と自分を比較する事によって自分の存在を肯定するのではなく、自分自身や自分の能力を見つめる事によって自分を肯定すればいい。つまり他人と比較して自己を肯定するのではなく、過去の自分と比較して現在の自分を肯定すればいい。即ち、現在の自分を肯定できる様に、自分自身の能力を少しでも向上したり発揮出来る様に努力すればいい。それだけだいいんだ。」