―存在とは何か

真理への飽くなき追究

生きている事に意味はあるのか―生徒と教師の対話

生きている事に意味はあるのか―生徒と教師の対話
 
生徒「先生、生きている事に意味はあるのでしょうか。私は生きている事がつまらないし、生きていてもいい事なんかないんだから、いっそ死んでしまった方がいいのではないかと思う事があります。そんな風に思う時は、自分の手首を切る事があります。そうしたら体の痛みによって、その分、心の痛みをごまかしてくれるので気分が楽になります。」
先生「君にはつらい事があるんだね。でもやまない雨は無いように、つらい事もずっと続くことは限らないさ。君は生きている事に意味はあるのか?と問うているけど、そもそも君が生きているとはどういう事なのか考えた事はあるのかな」
生徒「生きているとは死んでいないという事です。」
先生「そうだね、じゃあ死んでいるとはどういう事かな」
生徒「生きていないという事です。」
先生「つまり、生の定義が死を含み、死の定義が生を含んでいるという事だよね。つまり、生きているならば、必ず死ぬ。逆に言えば死ぬものは必ず生きているという事だよね。」
生徒「そうですね。」
先生「もし君が生きている事に意味が無いというのならば、死んでいる事に意味もないという事になる事に気が付いたかな。なぜなら、生の定義に死を含み、死の定義に生を含んでいるという事は、生きているという事は死なくして成立せず、死なくして生は成立しないという事だからね。」
生徒「もし私が生きている事に意味がないとしたなら、死んでいる事にも意味がないと言っているという事?」
先生「そういう事。つまり君が生きている事に意味がない、だから死のうという選択をするのは不条理だという事。なぜなら、生きている事に意味はないのだとしたら、死んでいる事にも意味はない。どっちも同じなんだから、わざわざ死ぬ必要なんてないじゃないか」
生徒「うーん・・・確かにそれはそうなるけど。先生は何で生きているんですか。生きている事に意味はあると思っているのですか。」
先生「そもそもね、自分は自分の意思で生きているんだ、という考えが間違っているんだよ。いいかい、僕たちは誰一人として、自分の意思で生まれこようと思って生まれてきた人はいないよね。気が付けば、自分が生きていた、存在していた。つまり自分の意思が在るのは生まれてきた後に生じた結果だよね。そもそも自分の意思があるのは自分が生きているからあるんだから。つまり、自分の意思は自分が生きている事の原因ではなくて結果なんだよ。生きているという事は自分の意思なんて軽く超えている奇跡なんだ。
生徒「それは、そうかもしれません。でもそれは私の両親がいたから私が生まれてきたんでしょう。つまり、私は両親の意思によって生まれてきたんではないですか」
先生「本当にそうかな。世界中の男女の人間から多くの人間が生まれているよね。でもそのほとんどは他者だ。自分ではないよね。ある人間が子供を産もうという意思を持ったからといって、生まれるのはほとんど他者だ。自分ではない。つまり、ある人間の男女の意思、つまり君の両親の意思によって人間が生まれるけど、それが他者ではなく、自分である事は両親の意思とは無関係なんだよ。いいかい、人間がどれだけ沢山、生まれてきた所で、私が生まれてくるとは限らないんだ。私が存在するという事が、どれだけ神秘的な事か分かったかな。それでもまだ君は私が存在する事に意味なんてないと思うのかな」
生徒「じゃあ、なんで私はいるんですか。それを教えて下さい」
先生「それは先生も分からないな。いいかい、意味が無いと言っているのではなく、意味が分からないと言っているんだよ」
生徒「どう違うんですか」
先生「そもそも意味というのはあるものとあるものが関係性をもつ事により生じる事だよね。つまり意味を問うという事は関係性を問うているんだ。ある結果に対してそれを生じた原因を問うていると言ってもいい。つまり生きる事の意味を問うという事は、生きている事の原因を問うているんだ。あらゆる物事の結果はある原因に依存して成立するものなんだから、私が存在しているという結果もある原因に依存している訳だよね」
生徒「その原因は?さっき、先生は私が生きているという事は私の意思も両親の意思も人間が生まれてくる事とも関係が無いといいました。」
先生「そう、正確には、理解出来ないほどの無限の原因により君という存在は成立しているんだ。だから、君の両親や人類が存在する事も無限の原因の一部分にすぎない。無限の原因を我々は認識する事は出来ないから、認識出来ている無限の原因の内のごく一部である両親や人類の存在を私が生まれてきた原因の全てだと勘違いしてしまうんだけど、これは大きな間違いであって本当は背後に無限の原因が潜んでいるんだ。だから私が存在しているという事は意味が無いのではなく、意味がありすぎて分からないんだ」
生徒「私が生きているという事は無限の原因、無限の意味によって成立している・・」
先生「そう。君が生きているという事はつまり無限である宇宙に原因があるんだ。君という存在は宇宙の無限の原因により生じた奇跡。その事さえ忘れなければ、つらい事だってきっと乗り越えられるさ。君という存在はなんたって宇宙の無限大の原因により支えられてりんだから」
生徒「そうですね。何か、少し気が楽になりました。先生、相談に乗って下さりありがとうございました。」