―存在とは何か

真理への飽くなき追究

―存在論哲学講義

存在論哲学講義
<登場人物> 
先生…おもに司会進行役
新司(シンジ)…常識的
太郎(タロウ)…明るく思った事はすぐに口にするタイプ
歩美(アユミ)…成績優秀。「ちょっとまって」が口癖
真理(マリ)…必要と感じた時に、必要な事しかしかコミュニケーションを取らない。読書好き。
 
 
先生「みんな、今日はあつまってくれてありがとう。題目が存在論哲学講義なんて、かたっ苦しいけど、今日は、存在、つまり「在る」と言うことについて自由に討論しながら、進めていきたいと思っている。」
新司「先生、存在について討論するって具体的に何を討論するんですか?」
先生「うん。つまり存在とは何か?という事だよ。では早速聞いてみようか。新司君、君は存在とは何だとおもう?」
新司「この教室には物があります。正確にいえば、原子の集合体ですね。そして我々も原子の集合体とみなせます。つまり物質、正確に言えば、原子が存在だと思います。」
歩美「ちょっとまって。でも、原子は正確に言ったら素粒子から構成されているのでしょう?そして素粒子も質量がある以上、アインシュタインEmc2からエネルギーとなるのよね?つまりエネルギーが存在と言えるのじゃない?」
太郎「じゃあエネルギーって何さ?」
歩美「空間じゃないの?空間がなければ、物質も生まれないし、変化も生じない、時間も無いわ。」
真理「・・・ねぇ見て、このこの傷。」
歩美「えっ、何急に…って、え!どうしたのその指」
真理「昨日、包丁で切ったのよ、今もまだ痛いわ」
太郎「おいおい、真理、それが今どうしたっていうんだよ」
真理「私は痛みを感じているの。つまり痛みは存在していると言えるわ。でもね、私が言いたいのは私が感じるこの痛みは空間に属しているのかってこと。」
新司「でも真理は、さっき指が痛いって言ってたじゃないか。つまりちゃんと空間の中にある指に、その痛みは、在るじゃないか。」
真理「そうかしら?たしかに痛みの「気配」は、空間に属している指のあたりからするわ。でも本当に痛みが空間に属しているなら、どうして観測する事が出来ないの?痛みはこの空間の『外側』にあるんじゃないの?でも痛みの状態は変化しているから、時間だけの1次元の世界に在るといえるかしらね。」
太郎「ってことは存在とは空間じゃなくて、時間って事か?」
先生「物質だけで考えるとどうしても空間と時間が必要だけど、意識だけで考えると、時間だけでもいいように思えるね」
歩美「ちょっと待って。意識を生み出しているのは脳でしょう?脳は物質だから空間に属している、という事は、やっぱり空間なくして意識は存在出来ないんじゃないの?」
太郎「いや、それこそちょっと待てよ。じゃあ脳が無くなったら意識も無くなるっていうのかよ」
歩美「だって、脳の視覚領域を壊れたら視覚が無くなるでしょう?そうやって次々と脳が壊していったら最終的に何も感じることも考える事も出来なくなる、つまり意識が無くなるでしょう?」
真理「歩美、今、あなたには意識がある?」
歩美「は?当然じゃない」
真理「でも、私、今あなたの脳を直接観察出来ていないから、あなたに意識があるとは認められないの、ゴメンね。」
歩美「真理、急にどうしたの?あなたがどう言おうが私が意識があるっていってんだから在るに決まってるでしょうが。何で私の意識が在るか無いかをあなたに決められなくちゃいけないのよ。」
真理「そうよね。最もな意見だわ。でもあなたがさっき言った通りに行動するなら、意識があると判断するのは脳を観察する第三者の判断により決まってしまうわ。」
太郎「つまり、てめーの意識があるかどうかなんててめーが決めろって事だろ?そんなの当たり前じゃね?」
新司「つまり、第三者から見て脳に反応がなくても、本人に意識がある可能性は否定する事は出来ないって事かな?」
真理「そういう事ね。そして、意識が無いなんて事は絶対にありえないって事。」
歩美「どうして?死んだら意識は無くなるでしょ?」
真理「あなた、意識が無い事を意識する事が出来ると思う?」
太郎「そりゃ無理だな。意識が無い事を意識出来たら意識があるって事だもんな。」
歩美「ちょっとまって。何?真理は死んだ後も意識はあると思ってるわけ?え、幽霊とか信じてるわけ?」
新司「歩美は信じていないの?幽霊とか」
歩美「当たり前じゃない。そんな非科学的な事。だいたい見たことも無いものどうして信じられるのよ」
真理「見たことが無いものを信じられないのなら、あなたは意識が在ることを信じていないわけ?あれ、おかしいわ、先ほどあなたは意識があると言っていたわね」
歩美「・・・」
先生「いやいや中々面白くなってきたね。まぁそんな事、死んだときに分かるんじゃないかな?生きている者は生きている事しか語らないってね。」
新司「先生はどうなんです?その・・・幽霊とか信じているんですか?」
先生「あはは、私は幽霊なんて物理学者にまかせておけばいいと中ば本気で思っている。だって、幽霊を見たり、幽霊の声を聴いたり、幽霊に触れたりする事もできるんだろう?つまり、肉体とは別の観測可能な物理的存在って事だろ。少なくとも、哲学、つまり形而上学で扱う事ではないよ。哲学で扱う事は、人間にも幽霊にも存在する『意識』それだけだ。」
太郎「所でさ、仮に死んだ後にも意識があるんだとしたら、俺たちがさ、生まれる前にも意識があったって事になるんじゃね?」
新司「じゃあ意識はどこからきてどこに向かうのさ?」
真理「不思議ね意識って。誰も望んでいないのに気が付けばこの体に与えられていて、気が付けばこの体から失われていく・・・私たちの、自由な意思、なんてどこにあるのかしらね」
歩美「どこに向かうかなんて、私たちに決められる事じゃないんじゃないの。どこから来たのかも分からないのに」
真理「あら、そうかしら?私は死んだとき、私がどこから来たかはっきり分かるようになると思うけど?」
歩美「どーいう事よ」
真理「あなた、夢を見たことある?」
歩美「え?、あるわよ、それが?」
真理「あなた、夢の中で、自分がどこから来たか分かる?」
歩美「んー、夢の中でそんな事考えた事ないわ」
太郎「夢の中っておもしれーよな。つか、自分がそこにいるのにどこから来たかなんてふつー考えねーだろ」
真理「でも、夢から覚めたら、分かるわよね」
太郎「そりゃ、そうだろ」
真理「それと一緒よ。無限に存在し続ける意識にとって生存なんて夢の様なものだわ。覚めたら、何もかも思い出すわ」
新司「・・・どこから来たか分かったのなら、元の場所に戻っていくのかな?」
真理「さぁ、それはどうかしら?さまよう幽霊なんてのもいう事だもの、全部が元の所に戻っていくとは限らないと思うわ。」
歩美「ちょっと、話が飛躍しすぎて分けわかんない。だいたい元の所ってどこよ?」
太郎「そりゃ、意識が生まれた所じゃね?」
歩美「どこから生まれたのよ」
真理「そうね、普通に考えたら・・・創造主、つまり「神」かしら」
歩美「はぁ、ちょっと本気?」
太郎「ははっ、神かいいなそれ。あっ、それって俺たち神の分身って事じゃね?」
歩美「ちょっとふざけないでよ。どうして私たちが神になるのよ」
真理「でも、意識なんて永遠不滅の摩訶不思議なもの、神の一部と考えてもおかしくわないわ。」
歩美「じゃあ神って何よ!」
真理「神も意識そのものよ」
先生「あはは、いやまさか、神の話までいくとはね。興味深い。所で、真理さんの話だと、すべての意識は神から生まれた、いや分裂した事になるのかな?」
真理「そうね、おそらくそうだわ」
先生「では、まだ分裂する前にはたった一つの意識存在、つまり神がいたという事になるね。じゃあその意識、これって何?何で在るの?って神の意識も思うはずだよね、我々と同様に、知らない間にあったこれ、意識・・・一体何だこれは?と、おそらく問うよね」
真理「その、存在についての不愉快、、、それが自身の変化を生じ、運動となり、そして宇宙を生み出す原動力になったと思うわ。私たちも含め万物は自身の存在に対する不可解、不愉快が内的運動を生じさせていると思うの。決して私たちは外的運動によって動かされるだけではないわ。ビリヤードの玉がぶつかったら動いた。そんな単純な構造ではないわ。私たちは内的運動を生じ、どこまでも突き進んでいく。同じ様に宇宙も自らの内的運動によって、どこまでも前へと突き進んでいく存在よ。」