―存在とは何か

真理への飽くなき追究

夢について―ソクラテスと青年の対話

夢について―ソクラテスと青年の対話
 
青年「ソクラテス!ここです!」
ソクラテス「おお、こんにちは、君かな?私と会って話したいと言う青年は?」
青年「そうです。お待ちしておりました」
ソクラテス「いや、ボクも今日という日を楽しみにしていたよ。ところで私と話したい事とはなんだったかな?」
青年「夢についてです。ソクラテス、夢とは何か知っていますか?」
ソクラテス「夢、おおなんとも神秘的であり深淵ある夢について、語り合う事になろうとは!いや、これは、是非とも、話し合うべき内容だとも!」
青年「そうでしょう、ソクラテス、夢とは何か?ソクラテス、あなたはどう考えているのですか?」
ソクラテス「うーん、不思議だよね。こうして、現実世界では、夢について考える事は出来るよね。でも夢の中では現実世界の事を考える事が出来ない。これって不思議だとボクは思うんだ。まるで、我々は3次元空間にいる状態で、2次元、1次元の空間について考える事は出来るけど、4次元空間やそれ以上の次元について考える事が出来ない事のようだ。」
青年「つまり、夢の世界はこの現実世界よりも低次元だから、低次元の夢の中では高次元の現実世界の事を考える事が出来ないと言う事?」
ソクラテス「うんそういう事。ボクはね、夢の中で夢を見る事がたまにあるんだ。夢の中で夢から覚める夢を見る事があるんだ。おお、さっきのは夢だったのか!と夢から覚める夢をね。つまり、ボクは夢の中で夢の出来事を思い出したり、考える事は出来るんだ。つまり、夢の中では、夢より低次元の夢の夢世界の事は考えたり想起する事は出来る。でも決して、夢の中で、高次元の現実の世界の事を考えたり、想起する事は出来ないんだ。不思議だと思わないかい?」
青年「確かに、不思議ですね。でも、私は夢の中では、判断する事が出来ないのも不思議だと思います。」
ソクラテス「ふむ、判断か。でも、ボクは現実の世界でも判断しているとは思わないけど。」
青年「どういう事ですか?あなたは、私とこうして話す事を判断したから、こうして話しているのでは?」
ソクラテス「いや、ボクは、君と話したいという意欲が無根拠に、無条件に生じただけだよ。そして、その意欲にまかせて話すか、話さないかは自由だったのに、なぜか、ボクは無条件に無根拠に話すという選択を行っていた。その行動に対し、ボクは君が好きだから話したのだとか、今日は、暇だから、君と話したのだとかいうのは、全て後付けの解釈にすぎないと考えているんだ。つまり、ボクは君と話すと言う判断を行ったから君と話しているのではなく、正確には、無条件に無根拠に必然的に生じた事実に対し、解釈を行なった。という事の方が正しいと思わないかね?」
青年「なるほど・・確かに意欲までは、自分でどうこうする事はできませんね。意欲は端的に生じたのであり、意欲が生じた後に、その意味や理由を考えても、意欲が生じた事実は変わらない。つまり解釈にすぎないという事ですね。」
ソクラテス「そうだ。」
青年「つまり、夢の中では判断できないのはなぜか?という問いは正確には、夢の中で解釈を行う事が出来ないのはなぜか?と問うべきだという事ですね。」
ソクラテス「まさしく。そして、その問いを考える前に、解釈とは何かを知っておかなくてはならない」
青年「うん、それはもっともですね。解釈とは何か知っていないのに、先に問題を考えるのは早急に思います。」
ソクラテス「うん、では君は解釈に必要なモノは何だと思うかね?」
青年「解釈に必要なモノですか?・・そうですね、まず、第一に事実が必要だと考えます。」
ソクラテス「そうとも、素晴らしい答えだ。他には無いかね?」
青年「それは、記憶、ではないでしょうか?生まれたての赤子が世界を在りのままに、在るがままにしか認識出来ないのは、過去の記憶に基ずき、別の可能性を考える事が出来ないからではないでしょうか?」
ソクラテス「うん、ここに解釈に必要なモノが出そろった。即ち事実と別の可能性、つまり記憶が。さて、では、解釈とは何かね?」
青年「即ち、解釈とは、事実に対し、記憶に基ずいて別の可能性を考えた上で、私はこの事実を選択したのだという思い込みの事でしょうか?」
ソクラテス「うん、素晴らしい答えだ。では本題の、現実世界では解釈を行う事が出来るのに、夢の世界では解釈が行なえないのはなぜか考えてみよう。」
青年「それは、夢の世界では、現実世界の記憶を想起する事が出来ないからではないでしょうか?夢の中において、現実世界では起こりえない、時系列の変換や、身体の変化、自己の変更、物理法則を無視する現象が生じても、疑う事が出来ないのは、そもそも疑うと言う事が、現実世界の記憶と比較に基ずく作業だからではないでしょうか?」
ソクラテス「なるほど。即ち、解釈や疑う事に共通する必要なモノは、現実世界の記憶の想起であるが、それが行なえないので、夢の中では、解釈や疑う事が出来ないと言う事だね。」
青年「そうです。」
ソクラテス「でも、それでは十分な説明では無い様に思える。」
青年「どういう事です?」
ソクラテス「初めに、ボクが述べた様に、夢の中でも、夢の夢に対しては疑ったり、解釈をする事が出来る。つまり、夢の中で、これは夢だと疑う事が出来るのは、それが夢の夢、つまり低次の夢世界だからだよ。夢の中で「これは夢だろうな」と疑っているのは高次の夢世界の中、つまり、高次の夢の中では、より高次である現実世界での記憶を想起する事は出来ないが、より低次の夢の夢世界の記憶は想起する事が出来るから、夢の夢世界の事に関して解釈や疑う事は出来ると考えられる。」
青年「つまり、夢の夢世界の記憶を想起する事が出来るのは、夢の世界よりも夢の夢世界の方が次元が低いからですね。しかし、夢の夢世界では、夢世界の事は想起する事が出来ない。それは次元が高いから。ちょうど、夢の世界で高次の現実世界を想起する事が出来ないように。」
ソクラテス「そうだ。」
青年「ところで、現実世界は覚める事のない夢なのでしょうか?それとも、死んだときに覚める夢なのでしょうか?」
ソクラテス「それは、この現実世界よりも高次元世界(死後の世界と言ってもいいし、4次元世界といってもいいし異世界といってもいい)の存在について、ちょうど、今話し合っている夢と同じ様に考えてみればいい。」
青年「どういう事です?。」
ソクラテス「即ち、我々はこの現実世界(3次元世界)において、高次元世界の記憶を想起する事が可能かどうか?」
青年「ん?どういう事ですソクラテス?我々は高次元世界に生きた事が無いので、想起も何も、想起する記憶がないではありませんか?」
ソクラテス「それは、君は夢の世界でも同じ事を言うのかい?つまり、想起出来ないから、現実世界なんて存在しないと、君は夢のなかでも言うのかい?」
青年「むむ、それは・・」
ソクラテス「つまり、現実世界において、低次元の夢の世界は想起可能だが、高次元世界は想起出来ない。しかし高次元世界が存在しない事にはなりえない。夢の世界において、高次元の現実世界を想起する事が出来ないが、現実世界は事実、存在している様に。」
青年「と、言う事は、我々が死んで高次元世界に行った時、ちょうど、夢から覚めた時のように、あれは(現実世界は)夢だったのか、と認識すると言う事なのでしょうか?」
ソクラテス「いや、死んだ後とは限らない。現に、ボク達は毎日、低次元の夢の世界と現実の世界を行ったり来たりしている。てことは、ボクたちは、より高次元の世界を想起出来ないというだけで、すでに何度も高次元世界を行ったり来たりしている可能性は十分にある。ボク達が、夢から覚めて、なんだ夢かーと毎回思うように、高次元世界に行った時は、毎回この現実世界をなんだ夢かーと思っているに違いない。」
青年「夢の様に不思議な世界が存在するのであれば、高次元世界もまた不思議な世界なのでしょうね。」
ソクラテス「いや、夢の世界の中では夢の世界を疑いも無く、不思議だと思わない様に、高次元世界の中では高次元世界を、疑いも無く、不思議だとも思わない。むしろ、現実世界において夢の世界を不思議な世界と思うように、高次元世界では現実世界を不思議な世界だと思うだろう。ようは、基準が変わるのだ。」
青年「所で、夢の中で夢を見る、つまり夢の夢世界、夢より低次の世界が有るように、高次元世界より高次元の超高次元世界も在るのではないでしょうか?」
ソクラテス「うむ、十分考えられるだろうね、それよりもっと低次、それよりもっと高次の世界もね」
青年「どこまで下がありどこまで上があるのでしょうか?」
ソクラテス「うん、所で、上とか下とかは、相対的な物事だよね、つまり、低次元と認識していても、より低次元にいけば、それは高次元と認識される。つまり、低次元も高次元もどちらも同じものなんだよ。」
青年「つまり最上も最下も無いと?」
ソクラテス「そう、最下まで行った所が実は最上であって、最上まで行った所が実は最下である。つまり、直線では無く、循環、つまり流転していると考えているんだ。」
青年「その根拠は?」
ソクラテス「さぁね。ダイモンの啓示かな」
青年「空とぼけはやめて下さいよ」
ソクラテス「あはは、まぁ、可能性の一つと受け取ってもらっていいよ。」
青年「わかりました、それではまた。」