―存在とは何か

真理への飽くなき追究

道徳とは何か?―のび太とドラえもんの対話

のび太「ドラえも~ん!」
ドラえもん「どうしたんだい?のび太クン?」
のび太「うわーん!ジャイアンがーシクシク」
ドラえもん「まったく、のび太クン。またジャイアン達にイジメられたのかい?」
のび太ジャイアンったら、自分が王様だと思ってるんだ!自分が全て正しいって。ジャイアンってば、ボクが大切にしていたラジコンカーを勝手に使ったあげく壊してしまったんだ。そのくせ、俺は悪くない、壊れやすく作ったお前が悪いんだって!ねぇドラえもん、ひどくない?!」
ドラえもん「まさか君はボクに同情しろとでも言っているのかい?」
のび太ドラえもん!ボクに同情してくれないの?ジャイアンは悪くないと思ってるの?」
ドラえもん「ボクが同情した所で、何も変わらないじゃないか。君を慰めたところで、君がジャイアンにいじめられたという事実は変わらないし、ラジコンカーが元に戻る訳でもない。それに仮にボクがロボットじゃなく人間だとしても、君が実際に悲しんでいる気持ちがどんな気持ちなのか理解するのは不可能だ。だからそれを考えるのは不可能だし、中途半端に理解したつもりになって、相手を慰める事で悦にいたる程、ボクは偽善者でもなし、それこそ君に失礼ってもんだよ。」
のび太「だから、君はどこまでいってもロボットなんだ!ぼくはそんな事気にしちゃいないし、ただ理解して欲しーだけなんだよ!ドラえもん!君はそんな事も分からないのかい?」
ドラえもん「わからないね。中途半端なドージョーなんて反吐が出る。ボクのこのリアルな気持ちはどこまでいったってボクにしか分からないんだ!ボクだったら、分かったフリをしてくれるくらいなら黙ってくれてる方が、よっぽどボクの事を理解してくれていると思うよ。」
のび太「もー分かったよ!でも、ジャイアンが悪いって事はドラえもんも認めてくれるよね?」
ドラえもん「さー?」
のび太「さー?…ドラえもん!本当に君は善い事も悪い事も判断出来ないポンコツないのかい?」
ドラえもん「いや、君が言う質問の意味が分からないんだよ。君が言う『悪い』とは、ジャイアンにとって『悪い』事なのかい?それとものび太クン!君にとって『悪い』事なのかい?」
のび太「そんな事決まっているじゃないか!悪い事は、ボクにとって『悪い』事でもあるし、それはジャイアンにとっても『悪い』事でもあるんだ。ジャイアンは自分にとっても『悪い』という事を知らないから悪い事をしたんだ。なぜなら、人間は自分にとって悪い事をする事は出来ないからね。だから悪い事は『ジャイアンとっても悪い』という事を知らなかった『無知』こそがそもそもジャイアンにとっての『悪』なんだよ!」
ドラえもん「んー?人間は自分にとって悪い事は本当に出来ないのかな?」
のび太「どーいう事さ?」
ドラえもん「いや、だからね、悪い事だと思っていてもできる事はあるんじゃないかって事だよ。例えば、たばこを吸う事は自分にとって悪いことだけど、タバコを吸っている人はいる訳でしょ?殺人者だって、それを行なう事は社会的にも、そして将来の自分にとっても、それは悪いことだと知っていると思うけど?」
のび太「違う、それは話が別だよ。それは欲望と意思の問題で、単にその人の意思が弱かったという事にすぎないよ」
ドラえもん「イシ?ヨクボウ?それって一緒の事でしょ?」
のび太「何を言ってるの?ドラえもん!君は本当にポンコツだね。意思と欲望は全く逆のものだよ。相反する物さ。意思が弱いから欲望に逆らえないんだよ!そんな事も分からないのかい?
ドラえもん「本当にそう言えるのかい?タバコを吸いたいけど、体に悪い事を知っているからタバコ吸わない人を意思の強い人と君なら言うよね?でも、その人は、単に『今の私』の欲望を優先させず、『未来の私』が健康でいたいという『未来の私』の欲望を優先させただけじゃないか。だから、この人は、未来の自分の欲望を満たす為についついタバコを吸っちゃわない意思の弱い人とも言えるんだよ。つまり、意思も欲望も、今の私の欲望を満たすか、未来の私の欲望を満たすかという違いでしかなく、私の欲望を満たすという点では同じものなんだよ。それは道徳的に正しい事と正しくない事にも言えることなんだ。」
のび太「どーいう事さ?ドラえもんが言っている事はさっぱり分からないよ!」
ドラえもん「だからこういう事さ。殺人が社会的にも、自分にとっても悪い事を知っていても殺人を行う人は、それは、未来の私の欲望ではなく、今の私の欲望を優先させただけという事だよ。つまり、殺人が未来の私にとっては悪い事だと知っているけど、今の私にとっては善いことだから、やったに過ぎない。逆に殺さない事は、道徳的に正しい事だけど、それは、単に今の私の欲望でなく、未来の私の欲望を優先させたに過ぎないと言う事さ。つまり、道徳的に善い事(正しい事)、悪い事(正しくない事)どちらも、私の欲望を優先させた結果に過ぎない、それを後から他人が勝手に解釈しただけという事さ。」
のび太「今か未来の私にとって善い事しか出来ないって言うけど、あえて、今の私や未来の私どちらにとっても悪い事を行う事は可能なんじゃないかな?」
ドラえもん「それは、今や未来の私にとって悪い事が、やっぱり、今や未来の私にとって善い事と思えるからそうするんだよ。」
のび太「それは自殺について言える事?」
ドラえもん「言えるだろうね。」
のび太「てことは、道徳的に正しい事をする人は、他者の為というよりは、未来の自分にとって善いことだからしているという事になるの?」
ドラえもん「本人は否定するだろうけどそうなるね。」
のび太「てことは、人間は道徳的に正しかろうが、正しくなかろうが、利己的にしか行動出来ないという事?。」
ドラえもん「それは違うさのび太クン。道徳的に正しい人は利己的でなく、『利他的』な人さ」
のび太「え?どういう事?さっき道徳的に正しい人は、未来の自分にとって善い事をしているからなんでしょ?」
ドラえもんのび太クン。君は、本当に『未来の私』は『私』だと思うのかい?」
のび太「え、未来の私は私じゃなか?何を言っているんだい?」
ドラえもん「君は本当にバカだなぁ。未来の私は今の私なしには存在出来ないんだよ。未来なんて不確実要素の塊の私なんかよりも、今の私の方がずっと確実な存在であり重要な事は当たり前じゃないか。」
のび太「いや、そんな事はないよ!だったらどうして未来の私の為にお金を溜めたり、食糧を備蓄しようと思うのさ。未来の私が仮に他人だとしたら、他人の為にお金を溜めたり、食糧を備蓄するんじゃなく、今の私の為に、お金をつかったり食糧を食べたりするはずじゃないか?でも実際はそんな事ないだろ?」
ドラえもん「それは未来の私を、『私』だと錯覚、思いこんだからにすぎないよ。本当は『他人』なのにさ」
のび太「どうして他人って言い切れるのさ?そんな事いったら、過去の自分も他人って事になるだろ?」
ドラえもん「そうさ、過去の私も、今の私からすれば他人さ」
のび太「どうしてさ?」
ドラえもんのび太クン。君は、リアルな感覚を感じる事が出来ない、自分と似た人間を『私』だと思うのかい?未来からやってきた、未来ののび太クンと名乗る人がタイムマシンでやってきたとしよう。でもその未来ののび太クンが目の前で刺されても今の君は痛くもかゆくもないんだ。それでも、未来ののび太クンを『私』だと思うのかい?」
のび太「当然さ!それは未来の僕なんだから!」
ドラえもん「あははは、じゃあ未来の君が、クローン技術で10体に増えていたとしよう。未来からやってきた10体ののび太クンはどれが本当の未来の君なんだい?どうやってその中から本当の一人の君と残りの9体のクローンを見分けるんだい?もちろんみんな同じ記憶を持っていて外見もまったく一緒だからね。」
のび太「誰がクローン体で、誰が本当の未来の僕なのか聞いてみる…」
ドラえもん「バカだなぁ。そんなのみんな自分がのび太だと言うに決まっているじゃないか。だって、姿や記憶が似ていても、このリアルな感覚を体験しているのはこの私だけだ!とそれぞれ言うだろうからね。結局、私と他人の違いは、このリアルな感覚を体験しているか、いないかの違いなんだよ。相手をどんなに観察した所で、相手のリアルな感覚を体験する事は出来ないんだ。」
のび太「つまり、目の前の未来ののび太と名乗る10人は、どれも『私』ではない?」
ドラえもん「そういう事になるね。私を私たらしめているのは、名前でも、外見でも、ましてや、肩書や、日本人とかでもなく、このリアルな感覚を体験しているかどうかなんだよ。」
のび太「うーん、じゃあ仮にだよ、未来の僕がタイムマシンからやってきて、未来の僕の為に君はしずかちゃんに告白して欲しいと言ってきたら、ボクは未来の僕は他人だから、そのお願いは拒否するべきなの?」
ドラえもん「あはは、仮にどういう事情で、未来の君がそんな事を言うか分から無いけど、仮に君がそれを実行したら、未来の君が今の君に会いに来る理由がなくなるから、今、目の前にいる未来の君は存在する理由がなくなるけど?」
のび太「どーいう事?未来の僕が言っている事は嘘って事?」
ドラえもん「つまり、仮に未来の君のお願いを聞いて、告白したと仮定する。すると未来の君は、今の僕にお願いをする為に会いに来る事は、お願いが存在しないのだから、会いに来ることは不可能だよね?」
のび太くん「そうなるね?」
ドラえもん「でも、今、この現在に未来の僕がこうして会いに来ているという事実から推測すると、君はしずかちゃんに告白する事は出来なかったという事が未来の君が目の前に存在するという事実から推察できるという事になる。」
のび太クン「仮に、ボクが、しずかちゃんに告白して彼のお願いを実行する事ができたとしたら?。」
ドラえもん「彼が、今ここにいる理由はなくなるから、彼がここに存在する必要性はなくなる。だけど、今、目の前に存在する未来の君が消えて無くなる事はありえない。と言う事は、彼が、未来から来た理由は「しずかちゃんに告白させる事」が本当の目的では無かった。いや、そもそも、未来から何か達成可能な目的を持ってくる事は不可能じゃないかな。もし、その目的が達成されたら、未来の君がここに存在する理由は無くなるんだから」
のび太クン「本当にそう言えるのかな。仮に、未来の僕のお願いを聞いて達成できたとしても、未来の僕がここに存在する事は揺るがないと思うけど。もし、未来の彼がタイムマシンでやってきて、ボクがそのお願いを聞いて実行するという運命だとしたら?つまり彼がここにくる事が必然だとしたら、何も問題ないんじゃない?」
ドラえもん「もし、のび太クンが言うように全てが必然で、未来は変える事が出来ないんだとしたら、そもそも彼は何で未来の君の為に来たんだろうね?
のび太クン「いや、別に問題はないよ。未来の僕は、未来を『変える』為にきたとは言っていない。未来の僕の為と言ったんだ。つまり、未来の僕が、ここにやってきて、ボクがそのお願いを聞く事が、未来の僕の為になっているという事実を述べたに過ぎないよ。」
ドラえもん「なるほどね、結局は、未来は決まってるって事だな。そして未来は決まっているという事は、未来は変えられないという事でもある。」
のび太クン「まぁそう考えないと、未来の僕がやってきたという事は矛盾した事になるからね。」
ドラえもん「少し、話が脱線したけど、つまり、未来の私は今の私にとって『他人』という事が分かってもらえたかな。」
のび太クン「つまり、私と言うとき、必然的に『今』の私と言っている事になるという事?」
ドラえもん「そうだよ。私とは『今』この『リアルな体験をしている』者の事だね。だから、未来の自分という『他人』の欲望を満足させる為に行動する利他的な人が、道徳的に正しいと言われる人なんだ。逆に『今』の自分の欲望を満足させる為に行動する真に利己的な人が、非道徳的な人と言われる。真に『利己的な人』は同時に『利今的な人』でもあるんだ。私とは『今』この『リアルな体験をしている』者だからね。」
のび太クン「つまり、道徳的な人は利他的で、非道徳的な人は利己的な人って言ってるって事だよね?そんなの当たりまえじゃないか。」
ドラえもん「そう当たりまえ。でも少し、違うのは、利他的という時の他人とは『未来の自分』も含んでいるという事かな。」
のび太クン「ていうかそんな事より、ジャイアン達をぎゃふんと言わせる道具ないの!ねぇドラえもーん!」
ドラえもん「やれやれ、そんな事したら、未来の自分がまたイジメられてしまうよ」
のび太クン「あはは、いいさ、だって未来の自分は今の自分にとって他人だもん!」
ドラえもんのび太クン・・・(はぁ、まったく君ってやつは。。。)」