―存在とは何か

真理への飽くなき追究

ウイルスと人間は共生している

―ウイルスと種は共生する。
・ウイルスが、初めて感染する宿主に侵入した時、破壊的になる。しかし、これはウイルスがまだ宿主と適応出来ていないだけである。
エイズウイルス、HIV1チンパンジーと共生関係にあったウイルスがたまたま人に感染した。ウイルスは近縁種の間ばかりでなく、異なる種の間でも感染する事がある。
・あらゆるウイルスは初期の宿主に対しては破壊的だ。しかし、宿主が死ぬ事はウイルスにとっても喜ばしい事ではない。ウイルスは宿主が居なければ、増殖する事が出来ないからだ。宿主の絶滅=ウイルスの絶滅を意味する。ウイルスの変異率は高い。結果的に、宿主を殺すウイルスよりも、宿主に利益を与えるようなウイルスが生存に有利になる。宿主が死ぬよりも、宿主が生き残り繁殖して増える事が、ウイルス自身を増やす事に繋がる。
HIVウイルスは人に感染してから日が浅いので、まだ共生関係を探って変異をしている最中という事だ。最終的にHIVウイルスは人に特有の完全に共生関係のウイルスとなるだろう。
・ウイルスにとって、最も、安全に自身を増やす戦略は、宿主の生殖細胞のゲノムに自身を組み込み内在性ウイルスになる事だ。こうすれば、わざわざ、宿主の細胞を突き破って、他の宿主に移動する必要はない。宿主が繁殖する度に自動的に自身を増やす事が出来るからだ。
外来性ウイルス(利己的)から→内在世ウイルス(利他的)へ→宿主とウイルスの共生
・利他性は進化の駆動力である。
 
―ウイルスは我々にどのような利益を与えているか。
・縄張り争いにおいて、自身が飼っているいるウイルスは敵への強力な兵器となる。
共生関係にある自身のウイルスは自分には無害だが、縄張りに侵入してきた敵に感染すると敵を容易に殺す事が出来る。チンパンジーが飼っていたHIVウイルスは、縄張りに侵入してきた人間への生物兵器となったのだ。
・共生関係にあるウイルスは他のウイルスが侵入してきた時、侵入を防御するタンパクを作る(中毒モジュールという)
・ウイルスにとって、自分の家(宿主)に土足で侵入してくる敵をみすみす見逃すはずはない。ウイルスにとって宿主は自分の物なのだ。ウイルスの侵入経路は細胞膜のレセプタータンパクに結合する事から始まる。しかし、共生しているウイルスは、レセプターに結合するタンパク(エンペローブタンパク)を生産し、レセプターを塞ぎ、他者のウイルスの侵入を防ぐ。
・細胞内に侵入したウイルスは増殖の際、自身を包むカプシドを生産する。しかし、宿主と共生関係にあるウイルスもカプシドを生産する。そうする事で、侵入したウイルスは誤って別のカプシドを使ってしまい、自分を増殖する事が困難となる。
・他の生物の有用な遺伝子を我々に運んでくれる。ウイルスは自身のゲノムに他の種の遺伝子を含んでいる事がある。ウイルスは種をまたいで遺伝子の水平移動を可能にしているのだ。これは進化を大幅に促進したと考えられる。カンブリア紀の大爆発も有用な遺伝子が、種をまたいでウイルスにより水平移動した事が、短期間での進化を促進したと考えられている。
・ウイルスのシンシチンという膜融合に必要なタンパクは、哺乳類の胎盤の栄養膜の作成時に使われている。細胞同士が融合する事で、母親の免疫細胞が、細胞間をすり抜ける事が出来なくなる。胎児を母親の免疫細胞から守っているのだ。
・シンシチンは、脳でも発現が高いという。これは仮説だが、シンシチンはシナプス小胞の膜融合に使われているのではないか?
生殖細胞でも発現は高いという。精子卵子に膜融合する様子は、ウイルス粒子が、宿主細胞に膜融合する様子に非常に似ている。有性生殖の方法は、ウイルスの宿主の侵入方法を利用したのではないか?そして、精子卵子の膜融合はシンシチンが使われているのではないか?生殖細胞では、DNAの脱メチル化が激しい為、内在性レトロウイルス(HERV)の発現が増えているからだけかもしれないが・・・ 
・ゲノムに組み込まれた内在性レトロウイルス(HERV)は遺伝子の発現の制御に関わっている。レトロウイルスの両末端にあるLTRrong terminal repeat)配列は転写を促進する配列である。人遺伝子の前にこの配列が挿入されると遺伝子の発現が増える事になる。
・ウイルスゲノムが挿入される場所によっては、ある遺伝子を失活させたり、抑制したりする事も出来る。LINEpol領域(逆転写、インテグラーゼ)を持つため、自身でコピーを増やす事が可能。LINEの近くにある遺伝子は一緒にコピーされて、別の場所に貼り付けられる事もあるかもしれない。(SINEpol領域がない為、他の内在性ウイルスの力を借りなければ増える事は出来ない)(HERV全体がコピーして他の場所に移動する事は現在見つかっていない。移動するのはLTEのみとなっている。)
 
―ウイルスが癌の原因となる場合もある。
・ウイルスのゲノムに癌原遺伝子が含まれるので、ウイルスゲノムが宿主に挿入された場合、宿主細胞の増殖が狂う場合がある。
・ウイルスが作るエンペローブタンパクがP53等の癌抑制遺伝子に結合する事がある。
・ウイルスが挿入された場所が、癌原遺伝子、癌抑制遺伝子やその付近の場合、欠損、又は転写の促進、抑制により正常に機能しなくなる場合。
 
―自己免疫疾患の治療法
・自己免疫疾患は免疫抑制剤等により免疫力が低下した事により、無害な常在ウイルス(ヒトヘルペスウイルス)等が増え、炎症を起こす。この場合、これ以上ウイルスが増えない用、レセプターを標的にした薬、逆転写酵素阻害剤、インテグラーゼ阻害剤等が有効かもしれない。
・エプシュタイン・バーン・ウイルスの感染。B細胞に感染したEVウイルスは、正常なB細胞でなくなり、自己に結合するIgGを作る事がある。この場合も抗ウイルス薬が有効と思われる。
MHCクラスⅡの異常?MHCクラスⅡは自己細胞のマーカーとなり、全ての細胞表面に存在する。もしMHCクラスⅡの合成はHERVが関わる。正常にMHCクラスⅡが作れなければ、免疫系は自身を攻撃してしまう。
 
―人間(哺乳類)は4倍体。
・胚の形成、体の形成に重要なHox遺伝子が人間には4セットある。その他にも発生に需要な遺伝子が4セットある事がわかっている。(他の生物は1セットや2セット)
・これは異種交配により染色体が2倍体になり、その後、さらに異種交配で4倍体になったと考えられている。
・異種交配は自然界で多くみられ、進化の大きな駆動力となっている。
 
エピジェネティクスの無限の可能性。
・現在、数十万出せば自身の全ゲノムを解析でき、SNIP1塩基多型)も分かる。これにより、自分が他の人に比べどのような遺伝子を持っているか分かる様になった。
・しかし、現在、持っている遺伝子はさほど重要ではない。どの遺伝子が発現しているかが重要なのだ。
・遺伝子をONにするもOFFにするも決めるのはエピジェネティクスだ。すなわち、環境要因によりどの遺伝子が発現するか決まる。
・すべての人間には信じられない潜在能力を持っているように思う。すなわち、天才と凡人を分けるのは遺伝子ではなく、エピジェネティクスだ。外部から刺激を与え続ける事により、眠った遺伝子を呼び覚ませば、信じられない能力を発揮できる様になるだろう。自分に眠った遺伝子をエピジェネティクスにより呼び覚ませ。
 
参考文献:破壊する創造者 フランク・ライアン