―存在とは何か

真理への飽くなき追究

ウイルスは生物である。

―ウイルスは生物か?
・ウイルスは生物である。
・生物とは自ら代謝する事が出来るという定義で決めてしまうのは誤り。
・多くの生物は代謝の一部を他の生物に依存している。人間も作れないアミノ酸脂肪酸があるし、ビタミンの合成は腸内細菌に頼っている。ウイルスも代謝の一部を他の生物に頼っているに過ぎない。
・生物の定義とは進化する事が出来る物と言えるだろう。
・進化に必要な条件は、自身のコピーを作り出せる事。
・コピーに変異を加える事ができる事。
・いくらコピーを大量に作れても、変化しないのでは進化とは言えない。コピーが作れなけらば、変異に失敗した時、その個体は消滅する。つまり、コピーを作らなければいけない理由は、変異は必要だが、変異が失敗した時の為にバックアップをとっておく必要があるからだ。
・この定義で言えば、自身のコピーを作りだし、かつ、変異を自ら加える事が出来るプログラムを生物と言ってもいいだろう。
RNAは自らの相補的な配列を作り2本鎖になる事が可能。この2本鎖がほどけ、再び相補的な配列を作れば自身のコピーを作る事が出来る。また相補的な結合AUGCが誤ってACGUとなったりする事もあるだろう。つまり、変異は複製の過程で生じる。
つまり進化の条件を満たしているので、コピーと変異を繰り返すRNAは生物といってもいいだろう。
・植物ウイルスの中にはカプシドも、エンペローブも持たない2本鎖DNAのみのウイルスが存在する。このDNAウイルスを植物細胞に注入させると大量のDNAウイルスが増殖し、さながらガン細胞の様に植物の中で増殖を続ける。このDNAウイルスは昆虫などが、媒体となり、他の植物に感染していく。しかし、複製に必要な遺伝子の1塩基を変異させる事で、このDNAウイルスを植物内に注入させても増殖する事はない。すなわち、1塩基の違いが、生物と無生物の違いを生み出している。
・つまり生物と無生物の境界はコピーを作れるか。コピーに変異を生み出せるか。であると言える。
 

―ウィルスにより人間は絶滅するか?
・しない。絶滅させる、すなわち殺傷能力が100%のウイルスは宿主を殺してしまい生存に不利となるから。テロ組織が恐ろしい殺傷能力100%のウイルスを作っても人類が絶滅する事はない。感染の過程で、ウイルス遺伝子に変異が生じる。結果、殺傷能力がたまたま低下するウイルス個体が生じるとする。殺傷能力100%の個体と殺傷能力が幾分か低下したウイルス個体、どちらが増殖能力が高いか?正解は殺傷能力が低下したウイルスだ。理由は宿主をすぐ殺してしまったら、他の宿主に感染する確率が低いから。殺傷能力が低下すると、宿主の寿命が延びて、宿主が他の仲間と接触する機会が増えるので、ウイルスが感染出来るチャンスも増えるからだ。ウイルスの目的はあくまで、自身のゲノムを増やす事。宿主の個体数が減少してしまったら自分のゲノムを増やす事も出来ない。
・かつて、スペイン風邪やサーズウィルス等、殺傷能力の高いウイルスが存在したが、今は殺傷能力が低い方へ、変異した。HIVウイルスの様に、潜伏期があり、宿主にも自覚が無いようなウイルスの方が、ウイルスは感染しやすい。
・その点でヘルペスウィルスは大成功していると言える。すべての人間にヘルペスウイルスは感染しており、通常、免疫力が低下しない限り、ヘルペスウイルスの存在を我々が自覚する事はない。
 
ヘルペスウイルスと宿主の共存関係。
ステロイドホルモン等の免疫抑制剤やストレスで免疫力が低下した時、ヘルペスウイルスは抹消の神経で増殖し、唇に水膨れが出来る事がある。しかし通常は神経と神経の間におとなしく潜伏している。
・しかし、ヘルペスは宿主にとって害ばかりではない。腸内細菌の様に、特別に悪さをしない細菌が一定数存在する事で、適度に免疫系が刺激される。常に、免疫力を高めている状態になる。つまり、戦闘態勢が出来ている。悪さをする病原体が入ってきても、増殖して手が負えなくなる前に、素早く殺す事が出来るのだ。
・それだけではない。他のヘルペスウイルス以外のウイルスが侵入してきたとする。当然、ヘルペスウイルスからすれば、邪魔物だ。他のウイルスが細胞内に侵入しない様に、エンペローブ膜タンパクを生産する。エンペローブ膜タンパクは宿主細胞のレセプターに結合する。他のウイルスは宿主細胞のレセプターに結合する事で侵入できる。しかし、ヘルペスウイルスのエンペローブ膜タンパクが邪魔でレセプターに結合出来ないので感染出来ない。
・それでも宿主細胞に感染する他のウイルスが出てくる。ウイルスは宿主細胞で自身の遺伝子を転写し、自身を構成するカプシド等のタンパクを合成させる。これらの材料を元に1個の宿主細胞から自らのコピーを何千個と作り出す。しかし、他のウイルスが自分の宿主の細胞に侵入してきたら、ヘルペスウイルスはカプシドを合成する。
他のウイルスは誤って、ヘルペスウイルス由来のカプシドを使ってしまい、自分のコピーが正しく作れない。結果、他のウイルスの感染力をヘルペスウイルスは低下させている。
 
―我々の体は誰の物か?
・自分自身の体は本当に人間の物なのか?人間の全ゲノムの1.5%が人の遺伝子。45%がウイルス由来のDNAトランスポゾン、レトロトランスポゾン等のゲノム。DNAトランスポゾン、RNAトランスポゾンは元々、細胞に侵入してきたウイルスだ。ウイルスは自身のDNAを宿主のゲノムに挿入する。その後、挿入したゲノムを鋳型にしDNARNAを作り、カプシド、エンペローブ等のタンパクを合成し、宿主細胞の細胞膜を突き破って数千個のウイルスが次の宿主細胞に感染すべく脱出する。しかし、自身のゲノムを増やす為なら、別に宿主細胞のDNAに潜んでいるだけでいい(潜伏期)。なぜなら宿主細胞は勝手にDNAを複製し、細胞分裂し、さらにはウイルスゲノムを含むDNA生殖細胞として次の新しい固体に引き継がれる。潜伏するだけなら、別に感染に必要なエンペローブ膜もいらないだろう。結果、DNAトランスポゾン、RNAトランスポゾンの多くは、エンペローブ膜に関わる遺伝子が欠損した物や一部が変異して機能していないウイルスという事になる。
我々の全ゲノムの45%にウイルスが潜伏しているという事は、もはや、たった1.5%の人遺伝子を運ぶ入れ物と言うよりは、ウイルスを増やす為の入れ物と考えてもいいのでは?
 
―ウイルスが感染していなければ哺乳類、つまり人間は存在していない。
・胎児と母親を隔てる胎盤の膜(合胞体性栄養膜)はウイルス由来の遺伝子により作られる。
・合胞体性栄養膜が無ければ、母親の免疫系が、自分自身と異なるDNAを持つ胎児を攻撃してしまう。
・合胞体性とは細胞融合を示す。すなわち、多くの細胞が細胞融合により一つの膜になっているのだ。
・母親の免疫系であるマクロファージが合胞体性栄養膜を通過出来ないのは細胞が融合している為。マクロファージは細胞と細胞の隙間をすり抜ける様に移動できる。しかし、隙間がないとすり抜ける事は出来ない。
・細胞同士の融合にはシンシチンという膜タンパクが関わる。これは元々、ウイルスのエンペローブ膜に存在する膜タンパク。シンシチンはウイルスが宿主の細胞に侵入する際、宿主細胞と自身のエンペローブ膜を融合し侵入するのに使われる。哺乳類のDNAに組み込まれたウイルスの遺伝子のシンシチンを利用する事で、母親と胎児を隔てる膜を作る事に成功。シンシチンはウイルスが侵入する際、宿主の免疫系を抑制する効果もある。つまり、胎盤付近の母親の免疫系を抑制する効果もある。
 
―ウイルスを利用する寄生バチ
・寄生バチはイモムシ等の幼虫に卵を産み付けると同時に、卵巣に飼っていたウイルスも同時に幼虫に感染させる。ウイルスは幼虫の細胞内に侵入し、ウイルスのDNAは幼虫のゲノムに挿入される。ウイルス由来の遺伝子が複製、転写される。ウイルスの遺伝子には、カプシドやエンペローブタンパクなどは含まれておらず、寄生バチの遺伝子が含まれている。
・寄生バチの遺伝子は幼虫の免疫系の顆粒細胞に結合し顆粒細胞を破壊する。
幼虫の免疫系の遺伝子の発現に関わるNF-κBを阻害し免疫系を抑制する。
幼虫がサナギになって体表が固くなると寄生バチの幼虫が脱出できない。幼虫がサナギになるには、エクダイソンと呼ばれる脱皮ホルモン。サナギになるのを抑えるのが幼若ホルモン(JH)。ウイルスが発現させるタンパクにはJHホルモンを活性化させる。結果、幼虫はいつまでたってもサナギにならずに幼虫のままだ。
・ウイルスのカプシドやエンペローブなどの遺伝子は寄生バチのゲノムに移動している。結果、ハチは卵巣細胞のみに適度にウイルスを増殖させる様にコントロールできる。
 
―ウイルスによる、他生物間での遺伝子の水平移動が進化を促進させた。
大腸菌大腸菌同士の接近の際、接合管によりプラスミドを交換している。プラスミドは元ウイルスであり、接合管により、感染する事が出来る。わざわざ、バクテリアファージの様に細胞壁を溶菌させて移動する必要が無い。なのでエンペローブ膜や溶菌に関わる膜タンパクの遺伝子を失ったと考えられる。
・病原性大腸菌O157の毒素はウイルスにより赤痢菌のベロ毒素が大腸菌に水平移動した物。
コレラ菌ジフテリア菌、ボツリヌス菌の毒素もウイルスにより、水平移動したと考えられる。
・宿主のゲノムを運ぶファージ。GTAgene tarnsfar agent)はファージによく似たウイルスである。
ファージの様に、次々と他の菌に感染しない。
しかもGTAのゲノムの中に宿主由来のゲノム断片(45kb)がランダムに挿入されている。つまり、GTAは一定の確率や条件で宿主の全ゲノム断片をランダムに仲間の菌に運ぶ装置である。自分の子孫を残して死ぬ生物の様に、自身のゲノム断片を含む大量のファージが自身から運ばれる際、溶菌により、細胞壁が壊れ、自身は死んでしまう。
 参考文献:ウイルスは生きている 中屋敷 均